プロジェクト

複合領域

プチスポット火山の熱水活動

世界で最も深い水深の熱水活動が,どこで起きているかご存じですか?


高校で「地学」の授業を受けた方は,地球の火山活動は海嶺(例えばアイスランド),島弧(例えば日本),ホットスポット(例えばハワイ本島)のいずれかで起きると習ったと思います.しかし,それらに当てはまらない火山活動としてプチスポット火山が知られています.プチスポット火山は上記の火山が噴火しない海域で活動します.さらに,他の火山よりも深い水深5,500 m以上の海底からも見つかっています.我々は,そんなプチスポット火山で海底熱水活動が起きていた証拠を初めて発見し(詳細はこちら),プチスポット火山の熱水活動が熱水生態系(熱水噴出孔付近の特殊な生態系)や炭素循環にどの様な影響を与えているかを明らかにするために研究を続けています.


プチスポット火山における熱水活動の概念図


2018年に,東北日本沖の水深約5,700 mに位置するプチスポット火山から,熱水活動によって形成した鉄マンガン酸化物が採取されました.それまで報告されていた熱水活動の最深記録は4,960 mだったので,それを大きく更新する水深で熱水活動が起きていたことになります.さらに,熱水活動が起きた海底は有機物を含む堆積物で覆われています.その様な海底で熱水活動が起きると,メタンが発生する事が知られています.つまり,熱水活動がなく,熱水生態系の生物にとって不毛な海底と思われていた東北日本沖において,プチスポット火山の熱水活動は鉄やマンガン,メタンなどの微生物のエネルギー源を供給するオアシスのような役割を果たしている可能性があります.さらに,プチスポット火山は東北日本沖のみならず世界中で発見されています.そのため,世界中のプチスポット火山で熱水活動が起きていると仮定すると,放出されるメタンや二酸化炭素の量は地球の炭素循環にも影響を与えうる量であると推定されます.


しかし,プチスポット火山の熱水活動は直接観測されておらず,まだ未解明な部分が多くあります.世界最深の熱水活動場で何が起きているのか,これからの研究で明らかにしてゆくつもりなので,ぜひ注目していてください.


プチスポット火山の熱水活動によって形成した鉄マンガン酸化物


※カバー画像および記事中の画像はAzami et al. 2023, Comm. Earth Envi.より引用.