所長メッセージ



私たちORCeNGは、地球上で最後のフロンティアである深海を開拓し、海底鉱物資源の実用化を目指す研究に取り組んでいます。「マンガンノジュール」「コバルトリッチクラスト」「海底熱水鉱床」に加え、近年発見された次世代のクリーンな資源「レアアース泥」など、海底鉱物資源は日本の最先端産業を支えるレアメタル・レアアースの次なる有望な供給源として大いに期待されています。しかしながら、その実開発には未だどの国も成功していません。ORCeNGでは、世界初となる海底鉱物資源の開発実現に向けて、行政機関や民間企業と協働しつつ、探査・揚鉱・選鉱・製錬といった基礎から応用まで様々な技術の研究・開発に取り組んでいます。海底鉱物資源開発の産業化が実現すれば、日本発の海洋開発産業や最先端ハイテク素材産業の創出・発展にもつながります。私たちは、「採掘」から「ものづくり」まで一連のサプライチェーンを国内に構築し、日本再生の起爆剤にしたいと考えています。


また、こうした鉱物資源は、地球のダイナミックな変動の重要な記録媒体でもあります。レアメタル・レアアースの資源が、「いつ」「どこで」「どのように」生まれたのか、そのメカニズムを解明することができれば、地球表層における様々な元素の循環とそれを支配する因子・プロセスを明らかにすることができます。これまでのORCeNGの研究成果から、新生代における全球的な温室気候から寒冷気候への転換とそれに伴う底層流の強化が南鳥島の「超高濃度レアアース泥」の生成をもたらしたこと、さらには海底に存在する海山群も有望な資源の分布を支配する重要な因子であることが分かってきました。こうした成因研究を推し進めることで、現在の海洋でどこを探せば資源が見つかるのか、その科学的根拠が得られるはずです。ORCeNGは、従来の海底資源探査のような「偶然に」ではなく、「確信的に」有望な資源を次々と見つけ出すことを可能とする「資源工学のパラダイムシフト」を興します。


さらに、海底の資源開発にはもうひとつ極めて重要な側面があります。陸上の資源は人の手の届きやすいところにあり、いわば「誰でも開発可能」です。そのため、違法採掘や環境汚染などの問題が発生しています。これは現在の人類社会が目指す「持続可能な開発目標 (SDGs)」に全く逆行するものです。これに対して、深海の資源を開発できるのは高度な技術としっかりしたコンプライアンスを持つ国や企業に限られるため、適切な管理により違法採掘などを防ぐことが可能です。日本が世界に先駆けて海底鉱物資源を開発することができれば、真に持続可能な資源開発の新しい在り方を世界に向けて示すことになります。私たちは子どもたちの世代が豊かに暮らしていける未来を拓くために、必ずこの新しい資源開発を成し遂げてみせます。その実現を目指してORCeNGは日々研究に取り組みます。