解説

数字で見る海と海底

海ってどんなところだろう

海の底はどうなっているんだろう

さまざまな数字に注目すると、海と海底の不思議が見えてきます



最新キーナンバー


19 %

全海底のうち精密な地形図が作成されているのは、19 %

 

前回の解説の最後に、「Googleマップで海底地形を眺めてみて」と書きました。皆さんご覧になったでしょうか。Googleマップに全海洋の海底地形が描かれていることを初めて知った、という方も多いのではないかと思います。

実は、Googleマップで表示されている海底地形のデータは、人工衛星が測定した地球の重力の僅かな変化を利用して得られた(推定された)ものです。正に、海底地形の衛星写真ですね。

 

海底に山があると、海水は山(の重力)に引き寄せられます。実際に人工衛星から海面までの距離を観測する(衛星高度計と呼ばれる)と、山の上では海面が僅かに盛り上がっていることがわかります。

ただし、重力推定や衛星高度計で得られたデータでは、精度の低い荒い地形図を描くことしかできません。そのことは、Googleマップで見つけた海山(例えば、拓洋第5海山)を拡大して見てみると良く分かります。ゴツゴツしているはずの山肌の様子は、全く見えませんね。

 

海底地形図の作成は、1903年にモナコ大公のアルベール1世の呼びかけにより始まりました。そして、精密な地形図を得るために、今はマルチビーム音響測深機が用いられています(詳しくは、前回の解説を参照)。

しかし、一度に測量できる幅は、広くても約10 km。さらに、地形調査の際の研究船の速度は、速くても時速22.2 kmほどです。1時間かけて調べられる範囲は、たかだか222 km2というわけです。約3億6千km2にもおよぶ広大な海洋を測量するには、途方もない時間がかかることは、すぐに想像することができます。

今回のキーナンバーである「19 %」は、地形図を作り始めてから120年以上経った現在においても、ほとんどの海底は未測量のままだということを示しているのです。

 

光(電磁波)を吸収してしまう海を持つ地球では、人工衛星や航空機から発する電磁波を使った効率的な測量が出来ません。「宇宙空間にある月や火星の表面よりも、地球の海底のほうが分からない事が多い」と表現されることすらあります。

 

現在、日本財団が、国際機関のGEBCOと協力して効率的な測量技術を開発し、2030年までに海洋全体の海底地形図を作るという計画(日本財団-GEBCO Seabed 2030)を進めています。

そして、この計画がスタートして2年10ヶ月で地図化された世界の海底地形が19%になったことが、2020年に発表されました

宇宙より “遠い” 場所である海底の真の姿が明らかになるのが楽しみですね!



バックナンバー


43億年

海ができ、海水が塩っぱくなったのは、地球形成最終段階の43億年前

 

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初期太陽系で、隕石や小惑星が沢山衝突し集まって地球ができました。その、できたての地球の冷却が進行しマグマオーシャンが冷え固まると、一次大気中の水蒸気が雨となって地表(固結直後の地殻)に降り注いで海となりました。


実は、この時降り注いだ雨は、いわゆる「酸性雨」であったと考えられています。塩酸などの酸は、色々な固体を溶かして水溶液にする性質があります。塩酸などを含んだ酸性の雨によって地殻(岩石)の一部が溶けることにより、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、リン、カリウム、鉄などが海水に溶けし出しました。

そして、ナトリウムやマグネシウムは塩酸の塩素と結びついて「塩」を作り、残りの水素は水から取り去られます(中和)。アルミニウムは海水が中和されたことで、沈殿したとされています。そのほか、大気中の炭酸ガスが海水に溶け込み、カルシウムやマグネシウムと結びついて炭酸塩(石灰岩)となって沈殿します。

 

最終的に、水に溶けやすい塩化ナトリウムなどが海水中に残り、現在の海水の成分に近くなったと考えられています。



3.0〜3.7%

海水の塩っぱさ(塩分)は、3.0〜3.7%

 

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塩っぱさは場所や深さによって違います。特に差が大きいのは海面付近の海水です。北極付近が最も低く、亜熱帯(北緯および南緯20〜30度付近)が高く、特に大西洋の亜熱帯が最も高いことが、2000年以降の国際観測プロジェクトによって明らかになりました。

このような海面付近の塩分の差は、海水の蒸発による塩分上昇や、降水や河川などからの淡水の流れ込みによる塩分低下のバランスの結果として生じます。

一方、海に深く潜るにしたがって、塩分を変化させる要因は少なくなります。そのため、潜れば潜るほど地球全体の平均値である3.5%に近づき、海底付近では場所による塩分の差はほとんど無くなります。

 

3.0〜3.7%という差は人間にとって僅かなものですが、0.1%の違いでも地球の気候を変動させてしまうことがあるので、「結構差がある」と言えるでしょう。



1海里

地球表面上で緯度1分に相当する長さ(1海里)は、1,852 m

 

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海での距離の基準である海里(ノーティカルマイル: nm)は、このように定義されています。地球一周の360分の1が「緯度1度に相当する長さ」、そのさらに60分の1が「緯度1分に相当する長さ」です。北極と南極を通って子午線上をぐるっと一周する長さは40,000 kmですので、40,000/360 = 111.111 kmが緯度1度の長さとなり、さらに、111.111/60 = 1.85185 km(1,852 m)が1海里(1 nm)ということになります。


海底鉱物資源の開発にとって鍵となる排他的経済水域は、沿岸から200海里までの範囲と決められています。200海里 = 1.85185 x 200 = 370.37 kmであり、例えば、南鳥島を取り囲む排他的経済水域の面積は、半径370.37 kmの円の面積に近似でき、370.37 x 370.37 x 3.14 = 430,726 km²となります。日本の国土面積である約378,000 km²と比較すれば、南鳥島周辺の排他的経済水域がいかに広大で、重要な場所であるかが想像できますね。

 

ちなみに、千葉工大から直線距離で1,852 m離れた場所には、JR総武線の東船橋駅、谷津干潟、船橋競馬場があります。歩いて行くにはちょっと遠いですが、船で行くには丁度良い距離でしょうか。



22.2 km

研究調査船が省エネ航行するときの速さは、時速22.2 km

 

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船が1時間に 1海里 進むことのできる速さを、1ノット(knot)といいます。つまり1ノットは、時速1.852 kmです。研究調査船の船員さんに聞くと、多くの研究調査船は、12ノットの時に最も燃費良く走れるのだそうです。1.852 x 12 = 22.2 kmですので、船の省エネ航行スピードは “それほど速くない” ということが分かります。自転車に乗って全速力で追いかければ、人によっては追い抜くことも可能でしょう。

自転車競技「スプリント」の最高速度は、なんと時速70 kmにも達するそうです。研究調査船のスピードは、全速力(約16ノット)ですら競輪選手のスピードには遠く及びません。

 

ところで、南鳥島は、東京からおよそ1,800 km離れています。12ノットで走る船で南鳥島に行くには、1,800/22.2 = 約81時間もかかるのです。とは言え、丸3日ちょっとの間、ずっと自転車を漕ぎ続けるのはさすがに不可能・・・。


こう考えると、船は大きな海を自由に行き来するためにとても便利な乗り物だ、と実感することができます。





7.4 km

日本の南を流れる黒潮のスピードは、時速7.4 km

 

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黒潮は、沖縄諸島の西の東シナ海を北上し、九州の南のトカラ海峡から太平洋へ流れ出て、四国や本州の南岸を東へと流れています。世界の海の表面を流れる海流の中でも最大級の大きさと速さを誇り、最も速く流れるところで4ノット(時速7.4 km)のスピードに達します。研究調査船が省エネ航行する時のスピード1/3と考えれば、世界最大級という黒潮の規模感が理解できます。

 

そんな黒潮は、北太平洋を時計回りに大きく循環する「北太平洋亜熱帯循環」と呼ばれる表層海水の流れの一部です。赤道域に集中する太陽から受けた熱(実際には温められた海水)を中緯度域に運ぶという、大事な役目を担っています。

スピードの速い黒潮によって、地球表面の温度が効率的に平均化されているのですね。


東京湾を出港して南の海域の調査に向かう時には、必ず強い黒潮を横切らなくてはいけません。船の揺れに身体が慣れないうちに黒潮を横切るのは、船酔いがさらに酷くなるので嫌、という人が大半です。

しかし、黒潮は地球の大気海洋の大循環システムにとっての主役なのだ、と思えば、辛い船酔いにも耐えられるでしょう(それとこれとは話は別、という説もあります・・・)。



30℃と0℃

2021年の世界の平均海面水温は、最高値が30℃、最低値が0

 

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太陽から受ける熱は、赤道付近の低緯度域では狭い範囲に集中し、極付近の高緯度域では広い範囲に拡散します。その影響で海面付近の海水温は、赤道付近で高く、南北に向かって緯度が高くなるにつれ下がり、両極域が最も低くなります。

赤道付近の中でも特に、太平洋南西部に位置するニューギニア島の北の海域が最も水温が高く、2021年は平均で約30℃に達していました。中緯度域の平均水温は20〜25℃で、北半球のほうが南半球よりも高い傾向があります。一方、極域の平均水温は約0℃で、場所による差はあまりありません。

千葉工業大学が創立した1942年(当時は興亜工業大学)の平均水温の最高値は、現在と同じニューギニア島の北域で、現在より1℃低い約29℃でした。

平均水温は年々上昇しており、地球温暖化を示す証拠のひとつです。

 

さて、2011年に発表された研究によって、約1億4200万〜1億2800万年前(白亜紀初期)には、北緯15°から20°の平均水温が32℃で、現在より5℃高かったことが明らかにされています。さらに、当時の高緯度(南緯53°)の平均水温は26℃で、南北の温度差が少なかったことも示されました。

このような超温暖期の海では、暖かく軽い海水が表層に、冷たく重い海水が深海に留まり、海水の密度バランスが保たれた結果、深さ方向の海水の循環がストップして、海底付近が無酸素状態になっていたと考えられています。

 

超温暖期の無酸素状態の海底では、熱水活動によって形成・沈殿した金属の硫化物は、酸化して朽ちることがありません。その結果、大規模に海底熱水鉱床が発達し、かつ、それらが保存されていたということが、2013年に発表された研究によって明らかになっています。

地球表面の環境の変化が、海底資源の成り立ちに大きな影響を与えていたのです。



1.028 g/m3

世界で最も重い海水の密度は、1.028 g/m3

 

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海水の密度(重さ)は、海水の温度と塩分によって変わります。冷たいほど重く、温かいほど軽くなり、そして、しょっぱい海水ほど重くなります。

つまり、冷たく高塩分の海水が最も密度が高く、最も重い海水の密度は、1立方メートルあたり1.028 グラム(1.028 g/ m3)であることが知られています。

 

そのような重い海水は、地球上のどこにあるのでしょうか。

両極域が世界で最も温度が低く大西洋の亜熱帯が最も塩分が高いというのは、以前解説したとおりです。それに加えて、大西洋の西側には、メキシコ湾流と呼ばれる暖流(太平洋の黒潮に相当)とそれに続く北大西洋海流が南から北へ流れており、亜熱帯の高塩分の海水を高緯度に運んでいます。その結果、グリーンランド沖の北大西洋で重い海水が作られます。

一方、南極の周辺には海氷(一般的には流氷という)が沢山浮いていますが、これらは実は真水が氷になったものです。つまり、海水から海氷が作られる時に余った塩分は、海水に濃集するため、ここでも重い海水が作られます。南極周辺で最も重い海水は、ロス海・ウェッデル海・アデリーランド沖で主に作られていることが知られています。

 

重い海水は、地球の重力に引かれて海洋深層に沈んでゆきます。そして、そのまま全世界の海洋を、ゆっくりとですが、ぐるりと一周回って循環しています。

このような北大西洋と南極を起点とする海洋の “熱塩循環” は、地球の環境変動もさることながら、海底資源の形成にも大きな役割を果たしています。



200 m

海の中で光合成が可能なのは、水深200mまで

 

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深い海の底が漆黒の暗闇であることは、皆さんご存知のことと思います。

太陽から飛んで来た電磁波である可視光線は、約90 %が海面で反射され、残りの約10 %のみが海中に入り、さらに海水によって吸収されてしまいます。そのため、深海底までは光が届きません。

では、海はどのくらいの深さまで明るいのでしょうか。

 

有人潜水調査船「しんかい6500」に乗って海底へと潜っていくと、南鳥島周辺海域のような海水の透明度が非常に高い海域で、かつ晴天の日であっても、数十 m潜っただけで辺りは薄暗くなり、水深200 mに達する頃には真っ暗です。潜航直後は目が暗さに慣れていないために余計に暗く感じるのですが、実際には水深200 mでもわずかに光が届いているそうです(観察窓から覗いても目では分かりません・・・)。

その “わずかな光” が届く限界の水深のことを補償深度といい、光合成生物(植物プランクトンなど)が光合成を行う(生存する)ことのできる最も暗い光、すなわち海面が受ける光の0.1~1%の光が届く深度として定義されています。

生物によって光合成に最低限必要な明るさが異なるので、補償深度を定義するための光量には幅があります。

 

生物の感光限界は、海面が受ける光の1億分の1 %程度。

また、太陽光が届く限界は水深約1,000 mで、水深200〜1,000 mの間をトワイライトゾーン(薄暗い区間)と呼びます。

 

補償深度より浅い海は、二酸化炭素を吸収・固定したり、生態系を育み豊かな水産資源をもたらすうえで、非常に重要な役割を果たしています。



ほぼ富士山

海の深さの平均は、富士山の高さと同じくらいの3,975 m

 

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日本一高い山、富士山の高さが3,776 mであることは有名ですね。

実は、海底の平均的な深さは、富士山より少し高い(深い)3,975 mなのです。

 

富士山を間近で見上げるととても高いので、こんな山に今から登るのか!と思ってしまいます。その富士山も、もし平均的な深さの海底の上にポンと置いたとすると、すっぽりと海水に覆われてしまいます。このとき、山頂は水深約200 mですから、光はほとんど届きません。海水に覆われた富士山は、その山頂すら見えなくなって、雄大な姿を見ることはできなくなってしまうでしょう。

 

さて、地球全体の表面積の中で広い面積を占める高さと深さには、2つのキーナンバーがあることが知られています。

1つは、陸上の標高0〜1,000 mで全表面積の20.9 %、もう1つは、水深4,000〜5,000 mの海底で全表面積の23.2 %を占めます。

 

広大な海底は、富士山の高さよりもさらに1 km以上も深いなんて・・・。そう思うかも知れませんが、もし海が明るかったらどうでしょうか。

海底に立って頭上を見上げた時、キラキラ輝く水面は、意外と近くに見えるのか。それとも、あんなに遠くに!と思うのか。

そんな想像をしていたら、潜って見てみたくなりました。



10,920 m

世界で最も深い場所の水深は、10,920 m


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今月のキーナンバー、もはや解説する余地はほぼ無いと言えるほど有名です。

世界最高峰のエベレストより深い場所、チャレンジャー海淵(かいえん)。冒険家はもちろん、私達のような海の研究者のみならず誰もが、どんなところだろう?とワクワクすることと思います。潜りたい潜りたくないとは別次元の話しとして。

ここでは、このキーナンバーを手掛かりにして、日本が誇る海底測量のパイオニアである「拓洋」という海上保安庁の測量船と、海底を測る技術について少し掘り下げてみることにします。

 

海上保安庁・海洋情報部のホームページには、グアム島の南の海域にもの凄く深い場所があることが発見され、10,920 mという深さが世界最深であることが確定されるに至った経緯が詳しく解説されています。その経緯を知ると、「拓洋」の活躍ぶりがおのずとクローズアップされます。

 

「拓洋」の役目は、海底の地形を詳しく調べることです。

船底に「マルチビーム音響測深機」という装置が設置されており、そこから放たれる音波を使って調べます。

音波が海底で跳ね返り船に戻って来るまでの時間を測り、海水を伝わる音波の速度(音速)との掛け算によって距離(深さ)が分かる、という仕組みです。音速は、水温や塩分によって変わりますので、別の観測によって水温と塩分を調べ、それらから音速を求めます。

マルチビーム音響測深機は、音を扇形に沢山放つことによって、横幅数kmの範囲の地形を一度に計測することができます。

 

海底はどのくらいの深さなのか?

山々が何処にあり、それぞれどの様な勇姿で、なぜ山になったのか?

山と山の間の深海底は、どの様になっているのか?

海底の不思議を理解するための最初の一歩が、「拓洋」や多くの海洋調査船が行うマルチビーム音響測深機による地形調査なのです。

そして、マルチビーム音響測深機を使って、貴重なレアメタル資源がどのくらい海底に眠っているのかを調べるための技術開発も進められています(詳しくはこちら)。

 

今までに「拓洋」が見つけて「拓洋」の名前が付けられた海山は、全部で5つあります。その5番目の拓洋第5海山は、海底資源が豊富な南鳥島周辺海域の中でひときわ大きく、特徴的な形をしています。南鳥島周辺に行き慣れた筆者ですら、地球儀やGoogleマップで南鳥島の場所を探す時、先ずは拓洋第5海山を見つけて、その北東の…という感じで道しるべにします。

 

皆さんもGoogleマップを「衛星写真」モードにして、海底地形を眺めてみてください。