外部資金

基盤研究 (B) 「南鳥島EEZに眠るマンガンノジュールとレアアース泥の成因と資源ポテンシャル」 (2013年度-2016年度)

研究課題番号:25289334 

研究代表者:中村謙太郎

研究分担者:沖野郷子加藤泰浩町田嗣樹佐藤太一藤永公一郎

研究期間:2013年度-2016年度

直接経費:10,800千円


【本研究課題の概要】 

 希土類元素(レアアース)や V、Co、Ni、Mo などの有価金属元素(レアメタル)は、 最先端の電子技術や環境・エネルギー技術に不可欠な元素であり、我が国の産業基盤を支えるための重要な資源です。資源小国である日本は、現状それらの資源のほぼ全てを諸外国からの輸入に頼っています。例えばレアアースは、現在その95 %以上を中国一国に頼るという極めて脆弱な供給構造を持っており、2005 年以降の中国による輸出奨励政策から規制強化政策への転換に伴い、レアアー スの供給不足や価格急騰が懸念されてきました。そして 2010年には、尖閣諸島沖での漁船衝突事件をきっかけとして中国がレアアースの輸出停止・制限を行ったことで、世界中にレアアースショックを引き起こし、不安は現実のものになりました。その他のレアメタルについても状況は同じであり、これらの金属資源の安定確保は、日本の経済・産業の未来を左右する喫緊かつ最大の懸案事項です。一方で、我が国は世界第 6位の排他的経済水域(EEZ)を有する海洋大国であり、そこには豊富な海底鉱物資源が眠っている可能性が指摘されています。このEEZ 内の海底鉱物資源を正確に把握し、開発有望海域の選定を経て、開発にまで至ることができれば、我が国はその主要産業であるハイテク産業を支える資源を自給することも夢ではありません。言うなれば、我が国はレアメタルを自給するための切り札を、EEZ 内の海底に保持しているのです。このような中、私たちは南鳥島東方沖のEEZ 内において、海底金属鉱物資源として古くから注目されている「マンガンノジュール」が高密度に分布する場所を発見しました。さらに 2012年には、南鳥島 EEZ 内に、これまで南東太平洋および中央太平洋の公海域にしか知られていなかった「レアアース泥」が存在していることも確認しました。実は、現状すでに我が国はハワイ沖公海上にマンガンノジュールの鉱区を持っています。また、太平洋の公海上に分布するレアアース泥についても、国際海底機構への申請を経て鉱区を獲得し、これを開発することも、将来 的には不可能ではありません。しかし、これらの本土から数千 km 以上離れた公海上の資源を、世界各国の同意を得て開発することは、政治的、経済的、時間的コストが極めて高く、非現実的であると言わざるを得ません。一方、もし同様の資源が南鳥島沖の EEZ 内にも大規模に分布していることが確認されれば、複雑な国際調整を経ること無く速やかに開発に 着手することが可能であり、その意義は計り知れないものになります。

 このような背景をうけ、本研究課題では南鳥島 EEZ 内の資源について (1) 効率的な広域探査手法の確立、(2) 資源分布の確定および資源ポテンシャルの見積り、(3) 資源濃集メカニズムの解明を行い、南鳥島 EEZ の「どこに」「どのくらい」、そして「なぜ従来の定説に反して」これらの海底鉱物資源が存在するのかを明らかにすることを目的としました。


【本研究課題の成果】 

本研究課題で明らかになった主な成果は以下の通りです。

  1. 効率的な広域探査手法の確立:船上からのサブボトムプロファイラー (SBP) により,高い精度と確度で,レアアース泥の探査を船上から効率良く行うことができるようになりました.また、マルチビーム音響測器(MBES)を用いてマンガンノジュールの存在を検知し,さらにはその分布密度についてもある程度把握できることが分かり,マンガンノジュールも船上から広域探査を行う目処をつけることができました.
  2. 資源分布の確定および資源ポテンシャルの見積り:SBPの解析により、南鳥島 EEZ 全域におけるレアアース泥およびレアアース泥を覆う表層泥の分布を明らかにすることができました.南鳥島 EEZ に存在するレアアースの存在量は,南鳥島南方の限られたエリア (2500km2) だけでも世界需要の数百年分におよび,南鳥島EEZ全体に存在するレアアースの量は莫大な量となることが分かりました.また、マンガンノジュールの分布域は南鳥島 EEZ の南部から東部にかけて広がっており,南鳥島南方におけるマンガンノジュールの概略資源量は6億トンにものぼるという試算が得られました.
  3. 資源濃集メカニズムの解明:本研究課題の成果から、南鳥島 EEZ のレアアース泥は北太平洋の遠洋域で形成され,プレート運動によって日本の近海まで動いてきたものであることが明らかとなりました.さらに,より開発に適すると考えられる「レアアース泥が海底面下の浅い場所に存在する海域」には最上位の表層泥が欠落していることから、レアアース泥の一部が深層海流の影響によって表層泥の被覆を免れたことにより,開発に適した形で存在するようになったと考えられます.また、マンガンノジュールの分布はレアアース泥露出エリアと非常に良く一致しており,マンガンノジュールの形成にも深層海流によるハイエイタス/削剥が関係している可能性が高いことが分かりました。


【本研究課題に関連する代表的な論文】 

  • Machida et al. "Visualisation method for the broad distribution of seafloor ferromanganese deposits." Marine Georesources & Geotechnology39, 267-279 (2019). https://doi.org/10.1080/1064119X.2019.1696432 
  • Takaya et al. "The tremendous potential of deep-sea mud as a source of rare-earth elements." Scientific Reports8, 5763 (2018).  https://doi.org/10.1038/s41598-018-23948-5
  • Yasukawa et al. "Tracking the spatiotemporal variations of statistically independent components involving enrichment of rare-earth elements in deep-sea sediments." Scientific Reports6, 29603 (2016). https://doi.org/10.1038/srep29603
  • Machida et al. "Geology and geochemistry of ferromanganese nodules in the Japanese Exclusive Economic Zone around Minamitorishima Island." Geochemical Journal50, 539-555 (2016). https://doi.org/10.2343/geochemj.2.0419
  • Nakamura et al. "Acoustic characterization of pelagic sediments using sub-bottm profiler data: Implications for the distribution of REY-rich mud in the Minamitorishima EEZ, western Pacific." Geochemical Journal50, 605-619 (2016). https://doi.org/10.2343/geochemj.2.0433