外部資金

基盤研究 (C) 「層状鉄マンガン鉱床におけるレアアース回収手法の開発と資源ポテンシャル評価」 (2017年度– 2019年度)

研究課題番号:17K06985

研究代表者:藤永 公一郎 

研究分担者:中村謙太郎 高谷 雄太郎

研究期間:2017年度– 2019年度

直接経費:3,600千円


【本研究課題の概要】
 レアアース (希土類元素) とは、元素周期律表第 III 族に属する元素番号 57  La から 71 Lu までのランタノイド 15 元素に、同じ第 III 族の元素番号 21  Sc と元素番号 39  Y 加えた 17 元素の総称のことを指します。素材原料に添加して用いることで極めて独特な磁気特性および光学特性を発揮することから、我が国の最先端産業 (Nd-B-Fe磁石や LED 電球、水素吸蔵合金な) を支える非常に重要な資源の 1 つであり、世界的にも今後の需要の急増が予測されています。しかし、その供給のほとんどを中国に依存しており、従来から中国の寡占化による供給不足や価格急騰の問題が懸念されてきました。この問題が大きくクローズアップされたのが、2010  9 月の尖閣諸島沖での漁船衝突事件をきっかけとする中国のレアアースの輸出停止・制限措置です。これは我が国だけでなく欧米をも巻き込んだ『レアアースショック』に発展しました。これによって、20112012年のレアアース価格は異常な高騰を示し、特に20118月の価格は同年 1 月と比べて 3 倍から 10 倍に達する高値となりました。この期間、日本企業は3,000 億円にも達する過剰支出を余儀なくされたと言われています。レアアースは『戦略資源』としての側面が極めて強く、他国の思惑や動向に左右されない新規の、できれば国内の供給源を確保することが我が国の国益にとって最優先すべき重要課題といえます。このような状況の中、日本では経済産業省を中心に代替材料の開発やリサイクルの推進などが図られていますが、将来的なレアアース需要の急増を考えると根本的な解決策にはなり得ません。また、新たなレアアース資源の探査・開発も並行して進められており、注目すべき成果として 2011  7 月には太平洋の海底に、さらに 2013  3 月には日本の排他的経済水域 (EEZ) である南鳥島周辺海域において、レアアースを豊富に含む海底堆積物『レアアース泥』が広く分布していることが発見されました。このレアアース泥は、膨大な資源量を持つこと、資源探査が容易なこと、放射性元素 (Th  U) をほとんど含まないこと、簡易な化学リーチングでほぼ全量のレアアースを回収できることなど、資源として有利な特長をいくつも兼ね揃えており、有望な新規レアアース資源として開発に向けた取組が進んでいます。ただし「海底鉱物資源の実開発」にはまだ時間を要するため、我が国が独自に開発できる別の供給源を確保する必要があります。

 そこで本研究課題では、日本列島付加体中に広く分布し、国内の新規レアアース鉱床としても注目されつつある『層状鉄マンガン鉱床』について、詳細なレアアース含有量とレアアースのホスト相を把握し、化学リーチングを用いてレアアースを効率よく回収する手法の開発を行います。そして、層状鉄マンガン鉱床のレアアース資源ポテンシャルを評価します。


【本研究課題の成果】 

 付加体中に分布する層状鉄マンガン鉱床の化学リーチングによるレアアース回収手法についての検討を行った結果、新しいレアアース資源として現在注目されている海底のレアアース泥鉱床と同様の手法で、効率的にレアアースを回収できることを明らかにすることができました。しかし、現在報告されている日本列島に分布する層状鉄マンガン鉱床の資源ポテンシャル自体はあまり大きくないことも分かりました。もし、今後陸上に大規模な層状鉄マンガン鉱床を発見することができれば、産業的に重要な重希土類の一部を国産資源として供給することが可能となるかもしれません。


【本研究課題に関連する代表的な論文】 

  • Fujinaga et al. "Umber as a lithified REY-rich mud in Japanese accretionary complexes and its implications for the osmium isotopic composition of Middle Cretaceous seawater." Ore Geology Reviews 142, 104683 (2022). https://doi.org/10.1016/j.oregeorev.2021.104683
  •  Takaya et al. "Experiments on Rare-Earth Element Extractions from Umber Ores for Optimizing the Grinding Process." Minerals 9, 239 (2019). http://doi.org/10.3390/min9040239